記事はこちらをクリック
おすすめの書籍はこちらをクリック
精神疾患を抱える青少年の「SNS体験差」
ケンブリッジ大学MRC CBUによる最新研究(2025年5月5日)が明らかにした、精神疾患を持つ青少年と健常な青少年のSNS利用における顕著な違いと、その影響について解説します。
研究の概要と方法
研究タイトル
「Adolescents with mental health conditions use social media differently than their peers」(精神疾患を抱える青少年は同年代と異なるSNS利用パターンを示す)
実施機関
ケンブリッジ大学医学研究評議会 認知・脳科学ユニット(MRC CBU)
筆頭著者
ルイサ・ファッシ(Luisa Fassi)氏
調査対象
英国在住の11~19歳の青少年 3,340名
研究手法
臨床レベルの診断データと自己申告アンケートを組み合わせた総合的解析
診断方法
専門臨床評価者による面接(本人および親/教師)
SNS利用測定
・典型的な学校日/休日の1日あたり利用時間(9段階評価)
・5段階リッカート尺度による行動・感情への同意度
精神疾患群と健常群の主な比較結果
この調査結果から、精神疾患を抱える青少年は健常な青少年と比較して、SNSをより長時間利用し、他者との比較やフィードバックに敏感であることが明らかになりました。また、利用時間のコントロールが難しく、オンライン上の人間関係に不満を感じる傾向が高いことも示されています。
内在化障害と外在化障害の違い
障害タイプによる差異
SNS利用パターンは障害タイプにより異なる
内在化障害群
不安・うつ・PTSDなど:ほぼ全項目で顕著な差
外在化障害群
ADHD・素行障害など:利用時間のみ増加、他項目では大きな差なし
研究では障害タイプによるSNS体験の違いも明らかになりました。特に内在化障害(うつ病や不安障害など内側に症状が向かう障害)を持つ青少年は、SNS上での社会的比較やフィードバックへの依存度が非常に高く、これらが症状を悪化させる可能性があります。一方、外在化障害(ADHDや素行障害など外部に向かって表出される障害)を持つ青少年は、主に利用時間の長さが問題となる傾向がありました。
SNSの有害性メカニズム
社会的比較の強化
他者の理想化された投稿と自分を比較し、自尊心の低下や拒絶感を感じる
フィードバック依存
「いいね」などの反応がドーパミン回路を刺激し、依存や情緒不安定を引き起こす
無限スクロール設計
終わりのないコンテンツ表示が自制心を崩壊させ、時間の浪費につながる
生活への悪影響
不眠・うつ症状の悪化・自己肯定感の低下など精神症状を増悪させる
研究では、精神疾患を持つ青少年が経験するSNSの有害性メカニズムについても分析されています。特に注目すべきは、SNSプラットフォームの設計自体が、精神的に脆弱な状態にある青少年の症状を悪化させる可能性があるという点です。無限スクロールや通知システムは、健常な青少年にとっても中毒性を持ちますが、精神疾患を抱える青少年にはより大きな影響を及ぼします。
SNSの有害影響を防ぐための対策
利用時間の上限設定
OSやアプリのスクリーンタイム機能を活用し、1日の利用時間に明確な制限を設けましょう。特に就寝前の利用は避けることが重要です。
目的を持った利用
漫然とスクロールするのではなく、趣味や学び、ポジティブな交流といった明確な目的を持ってSNSを利用しましょう。
通知オフ/バッチまとめ受信
常に通知を受け取ることで生じる過剰なフィードバックから距離を置き、一定時間にまとめて確認する習慣をつけましょう。
デジタルデトックス期間
週に1回はSNSを使わない日を設け、リアルな人間関係や活動に時間を使うことで、心のバランスを取り戻しましょう。
精神疾患を抱える青少年やその保護者、教育者は、これらの対策を積極的に取り入れることで、SNSの有害な影響を軽減することができます。特に重要なのは、SNSの利用を完全に禁止するのではなく、健全な利用方法を学ぶ機会を提供することです。必要に応じて、専門家によるサポートを受けることも検討しましょう。
心理的サポートの重要性
変化に気づく
SNS利用後の気分変化や行動の変化に注意を払い、早期の兆候を見逃さない
オープンな対話
SNSでの体験について批判せず話し合い、安心して相談できる環境を作る
対処スキルの習得
SNS上のネガティブな体験への対処法や感情調整スキルを学ぶ機会を提供する
専門家への相談
必要に応じて、心理カウンセラーや精神科医などの専門家に相談する
精神疾患を抱える青少年がSNSを健全に利用するためには、適切な心理的サポートが不可欠です。保護者や教育者は、青少年のSNS利用に関して過度に制限するのではなく、その体験について共感的に耳を傾け、必要なサポートを提供することが重要です。特に精神疾患を抱える青少年は、SNS上での否定的な体験に対して脆弱である可能性が高いため、感情調整スキルの習得を支援し、必要に応じて専門家によるサポートを受けられるよう配慮しましょう。
研究の意義と今後の展望
1
現在の知見
本研究により、精神疾患を抱える青少年は健常な青少年と比較して、SNSの利用パターンや体験に顕著な違いがあることが明らかになりました。
2
教育的応用
研究結果を基に、学校や家庭でのデジタルリテラシー教育の改善や、精神疾患を持つ青少年向けの特別なサポートプログラムの開発が期待されます。
3
政策への影響
SNSプラットフォームの設計や規制に関する政策立案に科学的根拠を提供し、特に脆弱な青少年を保護するための施策につながる可能性があります。
4
将来の研究
より長期的な追跡調査や介入研究を通じて、効果的な予防策や治療法の開発が進むことが期待されます。
ケンブリッジ大学MRC CBUによるこの研究は、精神疾患を抱える青少年のSNS利用に関する理解を深め、適切な支援策を講じるための重要な一歩となります。今後は、これらの知見を実際の予防策や介入プログラムに応用し、精神疾患を持つ青少年がデジタル世界を安全かつ健全に利用できるよう支援することが課題となるでしょう。